ゆりしぐさ ~百合漫画の表紙の構図にパターンを見出す~

百合漫画の整頓をしていたら構図にある程度のパターンが見出されたので書き出してみることにしました。即ち、所持しているタイトルに限られますし、整頓中に気付いたいくつかの手近な作品をざっくり並べたものです。画像には出なかったけれどあの名作もこの構図だ! という漏らしもあるかもしれません。あくまでも一例です。

何はともあれ。

百合漫画の表紙に類似性の見られる冊子を並べてタイトルをつけて語ってみました。

 

パターン1:頬を挟んでいる

すごく百合らしい雰囲気になるのがこの表紙。

もう…何だろうな…初っ端から絵にも描けない尊さで語るのが難しい…いえ、絵なんですけどね…? 的な尊さです。一瞥しただけで理性を奪われる理由を考えてみました。

まず何故か一目で百合とわかってしまう。

何故なら女子が女子の頬を挟んで一方を注視しているから。

そして両手の掌を頬に置くという仕草で二人の距離の緊密性を決定付けています。

画像で見て頂きたいです。

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一方の女性が一方の女性の頬を挟むことによって生まれる場の雰囲気には若干恋愛だけではない支配的なテイストが加わるように見受けられます。
頬を挟まれる側の女性の表情に注視してください。
喜怒哀楽の感情が如実に表現されています。

感情の放埓さの前提として頬を挟む側である相手への信頼、安心できる存在として認識しているがための気の許しを感じさせる構図です。
こちらに示した漫画は実際に相手との秘密を共有するストーリーが多く、秘密の共有や、それから生まれるちょっとした上下関係からこの構図が導き出されたのかもしれません。

この構図から想起される関係は「信頼」「愛着」といった対等性であるように思われます。名付けるなら「君が好き」とでもいいましょうか。

男女の恋愛ものであれば「顎クイ」や「壁ドン」に匹敵する仕草でしょうか。
この「両手のひら頬挟み」あるいは「頬挟み」は「百合しぐさ」としてどんどんやっていきをしてほしい表現のひとつです。

 
パターン2:宙に浮く

浮く。浮いちゃってる。片方の女性が浮いているパターンです。

なんかもう…何? この…片方が浮いていることによってファンタスティックな女神感が醸しだされて求める理想がここにある的なこの神聖な二人の領域には誰も入れません的な…もう…筆舌に尽くしがたいとはこのことです。

画像を御覧ください。

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片方が浮いているといってもさまざまなパターンがあります。

「さよならフォークロア」においては浮いている上にあすなろ抱き
その上で「さよなら」ときているのでいかにも儚い百合といったイメージです。

「ふたりべや」「オンリー☆ユー ~あなたと私の二人ぼっち計画~」に至ってはもう相手の懐に飛び込んでしまっています。浮くどころじゃない、飛び込み
近年の百合姫作品においては出色の「明日、きみに会えたら」では鏡越しに手をあわせて浮いているという複雑な構図です。これはタイムリープを生かしたパラレルワールドもの、という物語の枠組みをよくあらわした構図とも言えるでしょう。
ちなみに「明日きみ」は複雑な設定のうちに同一キャラクターを様々な関係性の枠組みにおかせることで多彩な表情を見せるという巧妙な仕掛けに成功しています。表紙にもこれくらいの情報量が適しているといえます。
「浮遊」の表紙は少女の幻想性を表現する時に適しており、その位置関係によって彼女たちの関係性も予想できます。好き。

あくまでも私見ですが、彼女たちが離別を告げている相手は古い慣習であると前提してみます。そう定めてみると、この「浮遊」の表紙には古さとの乖離、伝統への革命宣言的な潔さも感じられます。

このパターンは「蝶々」と名付けたいです。勝手に。

 

パターン3:挙式している
はい、こちらの画像を御覧ください。

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ご成婚おめでとうございます。
もう結婚している。結婚しているんです。結婚しているんですよ。
もうこれ…わかります? 私にはわからない。尊すぎて意味がわからない。でもわかる。理解はできている。でもわからない…尊すぎて理解が及ばない領域…何この神々しい…涙がとまらない…ありがとうございます…。ありがとうございます…。
おめでとうございます。心よりお祝いと感謝を申しあげます。
「加瀬さん。」シリーズの挙式絵が表紙を飾る「ひらり、」は、当該アンソロジーシリーズの最終巻です。「明日きみ」も最終巻である二巻の表紙です。偶然かもしれませんが、共に作品的なひとつのターニングポイントを迎えている点も共通しています。
名付けるなら「挙式」

冠婚葬祭という慣習を百合に与えることで大衆性を与えることに成功しています。禁断、タブーといった暗く閉じた世界ではない、恋愛よりも一歩先の明るさや愛を感じさせます。

伝統的な枠組が百合漫画の萌芽時代に受け継がれた時、百合であることによりその枠組みが新鮮に感じられる伝統的恋愛表現構図は他にもありそうな気がします。

どんどんやっていきをしてほしいものです。

 

パターン4:並んで寝ている
よく作中の人物の目線が読者に向いているか、互いに向いているかどうかが百合では肝心という話を見聞きします。さておき、並んで寝ている構図も結構ありました。

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体も正面に向いていて目線もこちらに向けられていても二人が手をつないでいたり髪にふれあっている、という身体接触の要素があるだけでこの構図は百合ではないでしょうか。互いの所有性を誇っているように見られます。

ここでは「少女セクト」と「ひらり、」2012年夏のvol.8を並べてみます。

「ひらり、」表紙の少女二人は巻頭漫画の「花と稲妻」の人物。性質も外見も正反対な二人が仲良くなるお話です。

一方の「少女セクト」の主軸となる二人も互いに真逆の外見・性質の主です。

全く異なる性質を有する二人の少女の接触が示されている。そして、こちらに目線を向けている。これはけして読者を意識した目線というわけではなく、彼女たちの所属する組織やグループのうちから抜け出す過程の宣誓的な目線ではないでしょうか。

手をつなぐことは所有だけではなく脱出のための手つなぎ、共存性を感じさせます。

単なる依存ではなく勇気のある触れあい、未知なる存在への認識。

「蝶々」とは全く逆の実在性、リアリティがこの構図にはこもっています。好き。

名付けるとするなら「聖域」とでもいいましょうか。

二人の間には作中の邪魔者はおろか読者の介入さえ許しません。

 

他にも色々なパターンがありますが虫干しの合間に気付いたことなのでこのへんで。

また機会を改めて、単にこの表紙が好き! というタイトルの話もしてみたいです。