百合展細見

東京開催の百合展2018に行って来ました。

そして記事を書かせていただきました。その際に未掲載となった作品案内のテキストここに記録しておきます。ちなみに文体が掲載時とちょっと違います。だ・である調です。五十音順です。

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天乃咲哉先生の展示はアニメ化もされた『このはな綺譚』。和風でファンタジックで獣耳という堪らない設定のなかに百合が踊る安心の作品。とにかく柚の可愛らしさが伝わる作品展示に目尻が下がる。 

○江島絵理先生の『柚子森さん』からは美麗イラストがふんだんに展示されている。明るい未来を予感させる完結を迎えたばかりで、小学生の柚子森さんの思い出をなぞっているかのよう。 

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○川浪いずみ先生の『籠の少女は恋をする』は辛辣な目的のもとに設立された学校の悲劇的な百合が見所。一見、性的なテーマを扱っているようにも見えるがその設定に於いて築かれるものが単なる恋ではなく純粋な友情やその絆である点が新しい。シリアスな場面の多い展開の中でもどきっとする原画の展示に足がとまる。 

○tMnR先生の『たとえとどかぬ糸だとしても』は兄の配偶者である女性への恋心にその婚姻の場で気が付くという、失望から始まる物語で百合ジャンルを超えて話題。主人公のウタに常識があるだけにその苦悩が痛ましい。鮮やかな筆致の原画展示は是非とも見ておこう。 

西尾雄太先生の『アフターアワーズ』はこれまでにない新感覚のクラブを舞台とした百合マンガ。主人公のエミはケイという女性と知り合い、その夜のうちに仲睦まじくなりそのまま一線を越える。性別へのこだわりなく踏み越える二人の絆は独特で格好いい。『百合展2017』では特別参加だったが今回からの正式参加に思わず喝采を送りたくなる。 

平尾アウリ先生の『推しが武道館いってくれたら死ぬ』は地下アイドルオタのえりぴよという立派な成人女性と彼女が魂と主にお金を捧ぐアイドル舞菜の相互片思いマンガ。百合という観点からみるとえりぴよよりも舞奈の業が深いのがポイント。安定のCamJam百合メンバー眞妃とゆめりのデート場面原画はありがたく尊い。 

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○文尾文先生の『私は君を泣かせたい』は純情ヤンキー虎島ハナと仮面優等生相沢羊の距離感が絶妙な百合マンガ。畏れていたヤンキーの涙腺が決壊する瞬間を見てしまった羊がさらりとSな素顔をさらけ出す瞬間が良い。ヤンキーという種族と百合の親和性は高く胸に刺さるだけでなくストーリーのテンポが心地よい。一喜一憂の機微も上質だ。展示ではまさにハナの泣き顔をじっくり見られるありがたさ。 

 

○南方純先生の展示は描きおろしのカラーイラスト。フルーツやスイーツをモチーフに対照的な漆黒と純白の少女二人が回転するように指を絡めている。それはもう、実質……。なんと表すかは控えるが見ておかなければ損をする。また百合展専用のPOPに至ってはファン必見のリドル尽くしだ。

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○未幡先生の『私の百合はお仕事です!』は「リーベ女学園」という百合な設定を前提としたコンセプトカフェで働く女子高生・白木陽芽が主人公。演じるべき役割と矛盾した人間関係やその人物たちの本質を赤裸々に綴り、ポーズとしての百合場面が映える一方で透かされる本心から目が離せない。華やかな絵柄で今回から晴れて参加の原画は目に焼き付けておきたい。 

 

○雪子先生の『ふたりべや』の登場はひとつのエポックメイキングだった。しっかり者の桜子が美少女かすみと同居するコメディ・ストーリーだが、ほのぼのした雰囲気のうちにたまに垣間見える桜子のかすみへの独占欲が完全に百合。愛や恋も超越して既に成婚しているとしか思えない二人の日常をいつまでも見ていたい。展示はコミックス表紙のイラストもあり鮮やかな色使いを直に拝める。 

吉富昭仁先生の『リリィシステム』の立ち上がりは『百合展2016』より百合展用に製作されたイラストシリーズ。吉冨先生といえば数ある百合アンソロジーでフェティッシュな関係性の百合を描き出しているありがたい存在。SFな百合好きにはたまらない世界観は、他の追随を許さない画力があってこそ。原画の精緻な美しさを是非鑑賞しておこう。 


○『エクレア あなたに響く百合アンソロジー』からはU35先生、川浪いずみ先生、缶乃先生、 北尾タキ先生、仲谷鳰先生、ヒロイチ先生、 結川カズノ先生の原画が展示されており、エクレアのハイライト場面が集結している。 

○百合コミック誌『ガレット』からは竹宮ジン先生と袴田めら先生の作品が展示されており見た瞬間に嬉しさが募る。竹宮先生の鮮やかな描線が描き出す凛々しさとシリアスな迫力と、時にコミカルなテンポで表現される大衆性。 袴田先生の恬淡とした雰囲気のうちに切実な情愛を抽出する作風。やとさきはる先生や寄田みゆき先生などガレット連載陣のポップも愛しく、確実に百合展にきてよかったと思えるエリアだ。

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○『ガレット』でもお馴染みの高橋みのり先生の作品は中間色で鮮やかに彩られた少女たちの自然な触れ合う姿が素敵だ。少女性をまっすぐに見つめ、自然な雰囲気のうちに寄り添う被写体は本当にその中で互いを想いあっているように映える。 

○美少女撮影活動チーム「Albina Albina」の作品群はリボンやレースをふんだんにあしらった少女マンガの世界のような雰囲気の少女たち。そっと寄り添う姿が幻想的でたまらなく愛しい。童話のような世界観でずっと見ていられる。 

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前年の「百合展2017」では15名の作家が参加していた。「百合展2018」ではその倍となる30名の作家が参加している。つまり2019年は60名、2020年には120名となることも推測される。やがて会場は国際展示場に飽き足らず世界を多い惑星を覆いつくすことであろう。
百合はまるで星の間に星座を見出すようなもの。星はもの言わず静かにそこに瞬いている。自らにとって素敵なものをただ求めよう。
そこには自分だけの星が見付かるだろう。

 

以上です。

取材目当てで行くとゆっくり見られないというか、どうしても色々考えながらばたばたするので、明日のコミティアで再度鑑賞したい。青山のスタジオはほんとにロケーションがよかったです。